宗次朗は一矢を蹴り飛ばし、一矢の体から『朱雀』を引き抜いた。鳩尾からは血が噴き出す。

だが、二、三歩よろめくと一矢は再び宗次朗に斬りかかった。


誰の目にも勝負はついていた。

宗次朗は軽くかわすと、今度が後方から真っ直ぐに一矢の首を貫いたのだ。それでいて、決して鬼の首を落とそうとはしない。


「宗次朗――貴様、恥を知らぬのかっ!」


先ほどの同情が吹き飛ぶほど、弓月は怒りに駆られた。


「時間さえあれば、弓月姫を慰みものにしたかったのだが……まあ、この男も最後まで役に立ってくれたからよしとしよう」

「何を愚かな……貴様が戦いたかったのは『白虎』の勇者であろう! それを」


腰に刀さえあれば斬りかかったものを。そんな思いを籠め弓月は宗次朗の双眸を射抜くように凝視する。

だが、宗次朗の視線は弓月を飛び越え、後方を睨んで薄笑いを浮かべていた。


「もう充分だ。俺は本気でやるって言ってるだろ! 一矢から剣を抜け」

「……乙矢殿」


弓月が振り返った時、そこにいたのは今度こそ乙矢だった。