一瞬、驚愕の表情を見せた宗次朗だったが、すぐさま立ち直る。


「なるほど。やはり結界からも『朱雀』からも離れては、鬼の暗示が消えたと見える。しかし、その体でやって来るとは……貴様、『青龍』の鬼を受け入れたな」


右は二の腕から下がなく、腹は裂けて袴の元の色もわからぬ状態だ。今の一矢は、狩野が『白虎』を手に現れた時より酷い有様だった。



一矢は、母の姉の息子である宗次朗を信頼していた。父の真意を知った時、一矢は不覚にも、宗次朗に相談してしまったのだ。

そんな一矢に、宗次朗は――自分は『朱雀』に選ばれた、勇者だと抜いて見せたのである。

それは見事に一矢の虚栄心を煽り、一矢は邪念に囚われた挙げ句、宗次朗の奸計に堕ちてしまったのだった。



「あの時……気付くべきだった。あなたが父上を恨んでいることを」


爾志に皆実の血は流れているが、皆実には他の三家の血は流れてはいなかった。

それは、三家から『朱雀の主』が現れる可能性はあっても、皆実家から他の神剣の主は誕生しえないということ。

爾志の先代宗主は、如何に望まれても、皆実家の宗主に娘を嫁がせることはできなかった。

酷なようではあるが、それほどまでに『朱雀』の勇者の血は、苛烈さを内に秘めていたせいだ。