「一年前、爾志の道場で『白虎の鬼』を一刀両断にしたのは、宗次朗さんだったんだな。さっき、弓月殿に見せた八相の構え。あれと同じ型だった。でも、なんでだ!? 妻子が殺されたんじゃなかったのかよっ!」


乙矢より七歳年上の宗次朗は、父である先代宗主を十二歳の時に亡くした。それ以来、皆実家の宗主を務めている。

数年前に、遠縁から妻を迎え、ひとり息子がいたはずだ。その妻子が最初の襲撃で殺され、宗次朗は結界を張って姿を隠したと言われていた。


そんな宗次朗が蚩尤軍に加担することはありえない、乙矢はそう思っていた。


「全て、お前のせいだ――乙矢。お前が『白虎』の選んだ勇者だからだ」


ようやく、宗次朗は言葉を発した。

それは、燃えるような『朱雀』とは相反する冷徹な声。宗次朗の面は、冷ややかな笑みを浮かべたままである。

続けて、静かに口を開く。


「一矢であれば楽だと思ったのだが……。奴の体の傷を見たか? 『白虎』を持たせたら、立ち所に『鬼』となり、取り上げるのにいささか骨が折れた。半殺しにせねばならぬほどにな」

「では……あの傷は」


弓月は得心するように声を漏らした。