「お、乙矢……どういうことか説明しろっ!」


新蔵は「『青龍』を抜け」と怒鳴る乙矢に呆気に取られ、更には、乙矢の言葉通り『青龍』を抜いた弓月を唖然と見つめていた。

そして、弓月の手に納まった『青龍一の剣』の閃光に、ただただ驚くばかりだ。

乙矢の時以上に、神剣そのものが輝きを放っている。


新蔵は慌てて自分の間抜け面を引き締め、殊更に乙矢を詰問した。


「どうもこうも……見てわかるとおり、弓月殿は『青龍の主』、勇者なんだよ」

「そんな馬鹿な、女の勇者など」

「伝説に男も女もねぇだろ? 『青龍二の剣』がないから確実とは言えんが。まあ、あの光具合から言っても間違いないだろうな。……どうした?」


乙矢に肩を貸していたはずが、気が抜けたように新蔵は地べたにへたり込む。


「探しまくった勇者が、弓月様とは。では、最初に弓月様が神剣を抜いておれば、誰も死なずに済んだのか……それは」


乙矢は新蔵の言わんとすることがわかり、それを途中で遮った。


「馬鹿言え! だったらとっくに凪先生が抜かせてるはずだろ?」


最初に出逢った時、弓月が背負った神剣を目にし、乙矢は不思議な感覚に囚われた。

『白虎』であれば、無造作に背負うなど信じられない。『青龍』一本なら、それも容易なのであろう、と半ば強引に納得したのだが……。


だが、高円の里での正三の様子と、現実に乙矢自身が手にした感触。

乙矢が帯剣した時、『青龍』に宿る鬼は周囲の殺気だけでなく、持ち主の心に浮かぶ寸毫(すんごう)の動揺すら見逃さなかった。

そのたびに、“お前を勇者にしてやる”“最強の力をやろう”“目の前にいるのは敵だ”と囁く。

やがて持ち主も“敵は斬らねばならない”と思い始める。