彼の目の前に『朱雀』が刺さった。

まるで、主の下に戻って来たかのようだ。そう思うと、フッと苦笑いを浮かべる。

彼はブナの木から『朱雀』を抜き、手に取る。そのまま立ち去っても良かったが……弓月の剣気を見た以上、放ってはおけなくなった。

それに、遊馬の一門があらかた生き残ってしまった。

一矢も思いのほか役に立たない男だった。そう思うと、彼は微かに頭を振る。

乙矢が万全でないのが悔やまれる。とはいえ、いっそ、ここを決戦の場にしても良いかもしれない。

彼はそう考え直し、『朱雀』を手に一団から離れて横たわる一人の兵士に近づいた。その男は、乙矢が腕をへし折った一矢の部下だ。未だ意識は、戻ってはいない。
 

「さあ――出番だ。お前に神剣の力を授けよう。我は『朱雀』。奴らはすべて敵である。敵を殺せ。お前は最強だ」


男は折れた腕に『朱雀』を掴まされ、静かに目を開いた。