「乙矢っ! 負けるなっ!」


叫んだのは弥太吉だった。


「乙矢っ!」


新蔵も立ち止まり、乙矢に加勢しようとするが……。


「馬鹿野郎、とっとと行けっ! いつまでも神剣持ってんじゃねぇ! 弓月殿に渡せ――俺は、大丈夫だって言ってんだろうがっ」


乙矢は鍔元を、双手(もろて)の平で挟み、受け止めていた。

『青龍一の剣』は乙矢の肩口を、薄皮一枚斬りつけただけだった。だが、この体勢では長く堪えることはできない。


しかし、それは一矢のほうも同じだ。一対一なら、間違いなく一矢が有利となる。しかし、間髪入れず後方から襲われてはひと溜まりもない。


その時、乙矢の足が動いた。


つま先で、転がる一矢の脇差を蹴り上げる。


そして一矢の力が弱まり、体を引いた瞬間――乙矢は蹴り上げた脇差を掴みながら、後方に飛び退いた。