凪を援護しようと弓月が立ち上がったとき、背後に一矢の気配を感じた。

サッと向きを変え、対峙する。


「我らの始末は、蚩尤軍の任せるつもりではなかったのか?」


ここに至って、ようやく仮面の男の正体が一矢であろうと弓月は確信した。

だが証拠がない。狩野の口から吐かせたかったが……それは不可能だろう。無念の思いで問う弓月に、一矢は悪びれる様子もなく平然と言ってのけた。


「無論、そのつもりだ。しかし、おぬしほどの女を、むざむざと死なせるのは惜しいとは思わぬか?」

「それは……蚩尤軍と通じた裏切り者だ、と認めるのだな」 

「裏切り? 何を愚かな。初めから味方であったためしなどない。そのようなことは先刻承知であろう? だからこそ、私を里から引き離したのではないかな……弓月殿自らが囮となって」


少しずつ、一矢の気配が変わり始める。

弓月は、知らず知らずのうちに膝が震えるのを感じた。だが、ここで臆する訳にはいかない。


「如何にも――貴様は、何か卑怯な手を使って乙矢殿を厄介払いし、新蔵までも追い払った。本当は、里に正三だけでなく、凪先生も残して行きたかったのであろう? 我々を分断し、真っ先に私を殺す予定であったのに、凪先生が宗主となり付いて来てしまった。貴様は、自分が勇者ではないとわかっているはずだ」

 
それは、一矢の中の真実に果てしなく近い――弓月の出した結論だった。