弓月らは、青々と茂る草むらに身を潜め、息を殺す。

敵は彼女らに気付いた気配はなかった。


「姫……これでは、一歩も進めぬでござる」


長瀬の声に焦りを感じる。

蚩尤軍の中には騎兵の姿も見えた、その数ざっと四~五十。とても、この面子で正面突破は不可能だ。


「なぜ、この道に追っ手が?」

「敵は一矢殿ではない、ということでござるか?」


弓月の問いに長瀬が答える。だが、その答えすら質問に過ぎない。一矢には来た道を引き返すかのように、ことさら印象付けたつもりだった。

一矢が蚩尤軍と通じている。長刀は、神剣に違いない。――そんな自分たちの判断すら信じられなくなる。

その時、比較的冷静な凪の声が、二人の後方から響いた。


「いえ、我らがこの道を通る事を一矢どのに知らせた者がいるのです」

「それは無理でござる。道が分かれる寸前に決めた事を誰が……」

「そなたであろう? 弥太吉」


凪の言葉を受け、少年の顔面は一瞬で蒼白になった。


「そ、それは……」