「織田さんが死んだのは奴のせいだぞ! それでもか?」


泣き叫ぶような新蔵の声に、乙矢は胸が詰まった。 


「死なせなくないさ。たった一人の兄だ。奴が、弓月殿を本気で愛して守ってくれるなら。大勢の人を守るためだけに神剣を手に戦ってくれるなら。二番矢は必要ない」

「乙矢……」

「一矢の悪意の矛先が俺だけに向いてるなら、俺が死ねば済むと思ってた。でも、違ったんだな。もし……奴の心に鬼が巣食い、勇者の仮面で鬼の剣を操っているのなら」


一瞬、その瞳が煌いた。

しかし、乙矢は軽く目を瞑るとすぐに開き、強い意志を持って言葉を紡いだ。


「その時は――俺が斬る。万に一つも、弓月殿を傷つけた時は、この手で殺す」


その声は紛れもなく本気であった。


「だ、大丈夫なのか? そんな気持ちで神剣を抜いても……まさかお前まで」


新蔵は、ふいに心配そうに尋ねる。

斬れないと言うと怒るくせに、斬ると言ったら途端に不安そうになる新蔵を見て、乙矢は苦笑いだ。


「俺は鬼にはならないんだと」

「なんで?」

「正三が言ったんだ。俺の胸に弓月殿が居る限り、鬼にはならない、って」


新蔵はグッと唇を噛み締め――同時に瞳が潤んだ。