弟矢 ―四神剣伝説―

その時、乙矢が不意に神剣を鞘に収めた。

抜いた時同様に、皆、ビクッとする。


「正三を……眠らせてやりたいんだ」


そう言うと、再び正三の横に屈み込んだ。

そして、次の瞬間、乙矢は自分より四寸程も大柄な正三を、軽々と抱え上げたのだ。そのまま、寺の本堂に向かって歩き出す。

だが、そんな乙矢の背に、


「お、お前が殺したんだろう!」

「いや、ひょっとしたら、遊馬の剣士どのがまた鬼になって……」

「織田さんは鬼になどなっとらん! 自ら神剣を放したんだ! 兄弟子を愚弄する奴は前へ出ろっ!」


無神経な里人の言葉に、新蔵は一瞬で切れた。

そのまま、血気走って刀の柄に手を掛ける。


「よせっ、新蔵! 皆、聞いてくれ。『青龍一の剣』を取り戻したのは俺じゃない。正三だ」

「乙矢……」

「四天王家の一角を担う、遊馬の剣士殿の最期だ。ゆっくり眠らせてやるのが礼儀じゃねぇのか? ――頼む」
 

そう言って頭を下げる乙矢に、里人らは道を作った。

それは、彼らの中の真実が逆転しつつある、証となるのであった。