だが、その瞬間、男は前につんのめった。まるで、足首でも掴まれたかのように。いや、正三の目に映ったのは、男のふくらはぎを斜めに突き刺し、地面に食い込む、見覚えのある刀であった。


「遅いぞ――乙矢」


悲鳴を上げ地面に倒れこむ男の背後から、乙矢が顔を出す。それを見て、おきみの顔がぱあっと花開く。


「おとやぁっ!」


どうやら幼い少女の目まで、闇に慣れたようだ。

乙矢は「よっ!」とおきみに向かって軽く手を上げた。


「なんで俺ってわかった?」


正三が新蔵の刀を見間違える訳がない。


「背を向けた敵の足を狙う奴など、私の知り合いではお前だけだ」


呆れた口調ではあるが、正三は明らかにホッとした表情をしている。