「おいっ、この腰抜け! 寝言は寝て言えっ!」

「ああわかってる。俺は本気だ。爾志家には一矢がいる。元々俺は余計だったんだ」

「お前こそ落ち着け! 考えてから言え! 死んでからは考えられんぞ!」


その時、キリキリと弦を引く音が聞こえた。敵将がその手に弓矢を持ち引き絞っている。


「確かに同じ顔が二つは目障りだ。その名に相応しい死に方をさせてやろう」


手を離した瞬間、矢は一直線に乙矢の心の臓を目掛けて飛んできた。


「乙矢、避けろっ!」


覚悟を決めると乙矢は静かに目を閉じた。




『……乙矢殿。私のことを守って下さいますか?』


乙矢の胸に残る弓月は笑っていた。必ず守る、と約束した乙矢を見て、満面の笑顔を見せてくれた。それを映したまま逝こう。

そう決めた乙矢の耳に、


『乙矢殿……お願いです。目を覚まして』


涙ながらに訴える、弓月の声が響く。聞き覚えはあった。遠く、記憶の底のほうで――これは、これは確か……


『乙矢殿っ!!』