「お前は……裏切り者で……敵だって言われた気がする。よくわからん。俺は何をしてるんだ」


乙矢の背に、ゾワゾワした得体の知れぬ感覚が甦った。

それは、背中を毛虫が這い回るかのような不快感。神剣を手にした正三が口の中で唱え続けていた――『斬れ……敵だ。斬らねばならない』あの言葉を聞いた時と同じものを乙矢は感じる。


「なあ、落ちかけて頭でも打ったか? それとも……お前、あの脇」


新蔵はハッとして、乙矢の質問を遮った。


「乙矢……お前、なぜ俺を助けた?」

「へ?」

「俺はお前を殺そうとしたんだぞ。それを……」

「よくわかんねぇけど。目の前で人が落ちかけたら、手ぇ出すだろ? お前がどう思ってるかはともかく、俺は前に恨みはないし……。それに、お前が死んだら弓月殿が泣くだろ?」


弓月の名をボソッと言われ、新蔵は様々なことを思い出し始める。


「あっ!」

「今度はなんだっ!?」

「俺は弓月様を怒らせて、破門になったんだ」

「はぁ? なんで?」

「お前と弓月様が、その……深い仲だろう、というようなことを言ってだな」

「ふっ、深いって! 深いも浅いも、そんなっ」

「なんで弓月様に向かってあんなことを言ったんだ! なんで、あんな」