乙矢は「まさか」という気持ちの奥で「やはり」という思いを抱いた。

一矢はそれほどまでに自分を疎んでいる。八年前のあの夜から、笑顔の裏に見え隠れする狂気があった。乙矢はその真実から目を背け続けてきた。どうやら、そのツケを支払う時が来てしまったのかも知れない。

だが、一矢が勇者でいてくれるなら……。

弓月を守り、一門の復興を叶えてくれるなら、代償に自分の命を差し出すくらい訳はない。元々その為に、醜態を晒してまで生き長らえた命だ。



「いや、あの……俺は……俺は、なんでここにいるんだ?」


そんな乙矢の深刻さとは逆に、曇りの晴れた新蔵の心には疑問ばかりが浮かび上がってきていた。


「お前なぁ――聞いてることに答えろよ。一矢が俺を殺せって言ったのか?」


新蔵には、あの一矢の囁きが、夢かうつつかわからなくなって来ていた。

一矢の言葉は、全て自分が以前から聞きたかったものばかりだった。その為には、乙矢を殺して当然と思っていたのは……何故だろう。

何より弓月を守らねばならない自分が、傍を離れてまで乙矢を殺しにくるとは。


ガチャン。


新蔵は、手にした刀を地面に落とすと、乙矢同様、その場にヘタリ込んだ。

何をしていたのか、何がしたかったのか。自らに問い掛けるが何も答えが見つからない。