「何をなさいます! お放し下さい!」


必死で身もだえするも、男の力には敵わない。

首筋に一矢の唇が触れ、荒い息が掛かった。一矢の手が単衣の衿元から忍び込み……弓月の胸のふくらみに直接触れる。


「い、いやっ……やめて、放して!」

「なぜだ!? なぜ、乙矢に許せるものが、私に許せない! そなたは私の妻になる身なのだぞ。それを……」

「誤解でございます。私たちは……そんな」

「たち? なるほど、総称する仲と言うわけか」

「違います! お放し下さい」

「弓月殿、そなたは私が守ると乙矢と約束したのだ。もう、男の形などせずとも良い。すぐにも私の妻となり、その務めを果たせ!」


それは、これまで経験したことのない、恐ろしい力だった。

弓月は、自分でも気付かぬうちに涙が零れる。一矢の手が袴の脇から押し込まれ……太腿に触れた瞬間、全身を走る嫌悪感に、弓月は呼んではならぬ男の名を口にしてしまった。


「やぁっ! 乙矢殿、助けてっ!」

「なぜだ……何ゆえ、乙矢の名を呼ぶ!」


一矢の怒りは頂点を超え、弓月の肌から離れた手は、その未熟な色香を漂わせた喉元を掴んだ。