里人の中からも、裏切り者、の声が上がり始める。
夫を、父を殺された、女たちのすすり泣く声に、少しずつ……少しずつ、悪意が毒のように里を覆い始めたのだ。
弓月は軽く頭を振ると、気を取り直し、口を開いた。
「待て、新蔵。乙矢殿が我々を裏切るつもりなら、あれほどの傷を負ってまで、私や正三を守ろうとするわけがないだろう? きっと……その辺に散歩に行かれているだけだ。すぐに戻って」
「姫。姫……落ち着いて下され。これほどの大騒ぎをしているのですぞ。近くにいるなら、気付かぬはずはござらん。それに、荷物は全て持って出たようでござる」
「そんな……そんなはずはない! 何かの間違いです。いや、ひょっとすれば乙矢殿も襲われて傷を負われたのやも知れませぬ! 私は乙矢殿を探しに行きます!」
踵を返し、里から出ようとした弓月を一矢は引き止めた。
「放して下さい!」
「ならぬ」
「何故です? 乙矢殿はあなたの弟ですよ? 心配ではないのですか?」
「残念だが、皆の言う通りやも知れぬ。神剣を奪い、里人を殺したのは……乙矢かも知れぬのだ」
「何を仰います! あなたは……」
一矢の言葉に弓月はカッとなった。激昂して言い返すが、そんな弓月に一矢は信じられないことを口にしたのだった。
「一年前、『白虎』を神殿から盗み出し、蚩尤軍に渡したのは――乙矢なのだ」
夫を、父を殺された、女たちのすすり泣く声に、少しずつ……少しずつ、悪意が毒のように里を覆い始めたのだ。
弓月は軽く頭を振ると、気を取り直し、口を開いた。
「待て、新蔵。乙矢殿が我々を裏切るつもりなら、あれほどの傷を負ってまで、私や正三を守ろうとするわけがないだろう? きっと……その辺に散歩に行かれているだけだ。すぐに戻って」
「姫。姫……落ち着いて下され。これほどの大騒ぎをしているのですぞ。近くにいるなら、気付かぬはずはござらん。それに、荷物は全て持って出たようでござる」
「そんな……そんなはずはない! 何かの間違いです。いや、ひょっとすれば乙矢殿も襲われて傷を負われたのやも知れませぬ! 私は乙矢殿を探しに行きます!」
踵を返し、里から出ようとした弓月を一矢は引き止めた。
「放して下さい!」
「ならぬ」
「何故です? 乙矢殿はあなたの弟ですよ? 心配ではないのですか?」
「残念だが、皆の言う通りやも知れぬ。神剣を奪い、里人を殺したのは……乙矢かも知れぬのだ」
「何を仰います! あなたは……」
一矢の言葉に弓月はカッとなった。激昂して言い返すが、そんな弓月に一矢は信じられないことを口にしたのだった。
「一年前、『白虎』を神殿から盗み出し、蚩尤軍に渡したのは――乙矢なのだ」

