「姫さん。この子は、親が死んでから言葉を話せんようになったんです」


弓月は、髪を左右に結び、あどけない面差しの少女の肩を引き寄せ、ギュッと抱き締めた。おきみは、家族全てを失った、弓月自身のようだ。そう思うと、弓月の胸は張り裂けそうになる。

だが、ここで泣くわけにはいかない。


「おきみ、絵に描けますか? それとも、なにかわかりやすい特徴が……」


そこまで言った時、おきみは顔を上げ弓月の後ろを指差した。


――おきみが示す先に立っていたのは、一矢であった。


周囲は息を呑む。


「あの……お方が下手人と言うのか?」


おきみは再びコクンと肯くと、そのまま弓月に抱きつき顔を隠した。


「一矢様……これはどういうことでござるか?」


長瀬も訳がわからず、一矢に問い掛ける。

そして、それまで黙っていた一矢が、深刻な表情で顔を上げ、口を開いた。


「乙矢はどうした? 誰か、乙矢をここに連れて参れ!」


そう言ったのだった。