気がつくと、弓月の目の前に、左肩を真っ赤に染め乙矢が立っていた。

その手には『青龍二の剣』がある。

次は、乙矢が自分に斬りかかるのだろうか? その時は、弓月に為す術がない。

だが、


「が、う。……ちがう。違う。違う! 俺が……俺が欲しいのは、守る強さだっ!」


突然、乙矢が叫んだ。


「……おとや、どの?」

「うるせぇ! 勇者なんかどっちでもいいんだ! 誰も斬りたくないって言ってんだろっ! もう……誰も殺させねぇっ!!」


その言葉と同時に、乙矢は手にした神剣で空を一閃した。

全身から沸き立つ、蒼白の淡い光が弓月の目に映る。暗く澱みかけた乙矢の瞳は、見る見るうちに光を取り戻した。


「乙矢殿? 私がわかりますか?」


ハッとした顔で乙矢は弓月を見た。