「乙矢殿っ!」


弓月は叫びながら、咄嗟に手にした自身の剣を放った。

乙矢は飛びついて手に取るが、それでも、鬼の剣に敵うものではない。すぐさま追い込まれ、窮地に陥る。

どうにか間合いを取ろうとするのだが、乙矢が立て直そうと距離を取れば、『鬼』は手近な里人を斬りつける。

策を立てる暇もなく、人外の力と斬り結び続けるのは至難の業。ましてや、乙矢は剣を手に戦うのはこれが二度目。自信もなければ経験もない。

あるのは弓月を守らねばという想いのみ……。


とにかく、里人を全員逃がせれば活路は拓ける。幸か不幸か、『鬼』は敵味方関係なく斬りつけるので、蚩尤軍も不用意に近付けない。


その時、親を殺された幼子が、その亡骸に縋りつき声を上げて泣き始めた。『鬼』は容赦なく幼子に剣を振り下ろす。それを寸前で止めたのが弓月だ。しかし、長刀は乙矢に渡しており、短い脇差ではとても鬼とは斬り結べない。


乙矢に迷っている時間はなかった。

手にした刀で『鬼』を背後から逆袈裟に斬り上げる。


手応えはあった。また人を殺した。何人殺さなければならないのか……乙矢が後悔を覚えたその時、『鬼』は振り向き、乙矢の手から刀を弾き飛ばした!