それでも尚、怯まないのは弓月の中に流れる勇者の血ゆえかもしれない。
彼女は、真っ先に刀を抜き、里人たちを救うため、柵の繋ぎ目を斬り、ぐら付いた部分を蹴倒した。
「逃げるんだ、早く! 女子供を先に逃がせ! さあ……立つのだっ!」
弓月が開けた箇所に人々が殺到する。逃げ惑う里人の土煙で、柵の中は混乱の極みだ。その時、左手から殺気を感じ、弓月は後方に飛びずさる。
半瞬差で、弓月の居た場所が剣で薙ぎ払われた。
それは彼女が初めて、『神剣の鬼』と対峙した瞬間だった。
鬼にされたのは、どこにでもいそうな一兵士に見える。
間違っても、それほど腕は立ちそうもない。だが、その目は血走ったまま焦点が定まっていない。
男の口からは、絶え間なく呪言のような言葉が漏れ続けていた。そして、瞳の光が刻々とその色を変える。獣……いや、人外に近づいて行くような気配に、弓月は底知れぬ恐怖を感じた。
(これが鬼か……人の心を奪われるのか?)
弓月の心に、鬼にされた男に対する情がよぎる。
しかしそれは一瞬のこと。
彼女は、真っ先に刀を抜き、里人たちを救うため、柵の繋ぎ目を斬り、ぐら付いた部分を蹴倒した。
「逃げるんだ、早く! 女子供を先に逃がせ! さあ……立つのだっ!」
弓月が開けた箇所に人々が殺到する。逃げ惑う里人の土煙で、柵の中は混乱の極みだ。その時、左手から殺気を感じ、弓月は後方に飛びずさる。
半瞬差で、弓月の居た場所が剣で薙ぎ払われた。
それは彼女が初めて、『神剣の鬼』と対峙した瞬間だった。
鬼にされたのは、どこにでもいそうな一兵士に見える。
間違っても、それほど腕は立ちそうもない。だが、その目は血走ったまま焦点が定まっていない。
男の口からは、絶え間なく呪言のような言葉が漏れ続けていた。そして、瞳の光が刻々とその色を変える。獣……いや、人外に近づいて行くような気配に、弓月は底知れぬ恐怖を感じた。
(これが鬼か……人の心を奪われるのか?)
弓月の心に、鬼にされた男に対する情がよぎる。
しかしそれは一瞬のこと。

