織田正三郎――彼は、勇者の血を引くことに誇りを持ち、代々、遊馬家の師範代を勤めてきた。

遊馬のため、弓月のために命を捨てる覚悟はいつでもある。だが、伝説が真実だとしても、太平の世に勇者の出番はなかろうと、高を括っていた。

その反面、心の奥底では勇者の血に思いを馳せ、それに対する憧憬が消えることはなかった。

正三は、自らの腕に自信を持っている。

ともすれば、それは『青龍二の剣』一本なら自分にも扱えるやも知れぬ。……そんな甘い考えに、囚われる危険を孕むものだ。

わずかな恐怖とそれが見えなくなるほどの期待を胸に秘め、初めて神剣を背にする。

だがそれは、正三の予想とは違い、危険を忘れてしまえるほど軽かった。