その一本が正三の背中にあった。

囲いの中央に縛られた男が、縄を引き千切って暴れ出すと同時に、正三は地面に膝をついた。


「織田さんっ! おいら、凪先生を呼んで来ます!」


正三の異変に、同行していた弥太吉は、務めを放り出して凪の元に向かおうとした。

だが、その少年の手を掴み引き止める。


「駄目だ。我らが火を点けねば、他の皆が動けん。私は行かねばならん。弥太……お前が武器庫に火を放て。できるなっ!」



弓月の背に、本物の神剣を背負ったままではすぐにばれてしまう。

そのため、神剣の守護を一時、人に任せることにした。残った中で勇者の血を引くのは叔父の凪か、遠縁にあたる正三のふたりのみ。弓月は凪に委ねるつもりだったが……


『姫様、どうか私に、『二の剣』の守護を任せて貰えませぬか?』


正三の真摯な眼差しに心を動かされ、弓月は彼に託した。