『高潔で優しい父であったのに……なぜ、『青龍』は父を選んでくれなかったのか。全てが私を逃がすためだと思えば、口惜しくてなりません』

『それでも、神剣を取り戻すのか? こんな剣なくなったほうが良いとは思わないか?』

『それは……わかりません。でも、これが遊馬家に生まれた私の宿命です』


異論はあったが、あえて乙矢は口にはしなかった。

目の前でなくとも、父や兄の最期を聞き、どれほど弓月が心を痛めたか察したからだ。弓月は命がけで『二の剣』を手に逃げ出した。


それに比べ、乙矢のやったとは、彼女とは正反対のことで――



里人の悲鳴が乙矢たちにも届く。

目を凝らして囲いの中を見ると、まさに地獄となり掛けていた。


「やめろ! やめさせろ! なんで……あの連中が何をしたんだ!」

「どうせ爾志家縁の者ばかりであろう? 反逆者の縁故なれば殺されて然るべき」

「お前らが殺したいのは俺だろう? だったら俺を殺せっ!」

「いかにも……その剣で鬼を止めてくだされ、勇者殿」


薄ら笑いを浮かべた顔を、思い切りぶん殴ってやりたいと乙矢は思った。だが、そんな暇はない。

弓月は刀を抜くと、弓兵の的になるのも構わず、囲いの中に飛び込んで行った。

乙矢も慌てて後を追う……その手に、鬼の宿らぬ『青龍二の剣』を携えて。