今日の朝は紅茶だった。朝子は文句も言わず黙々と素直に紅茶を入れ、給湯室でのおしゃべりも少なく、静かな朝だった。
静か過ぎて、加奈は違和感を感じていた。
土曜の合コンの結果を聞きたかったが、言い出せなかった。



カタカタカタ・・・カタカタカタ・・・
「・・ふわぁ・・・」
静かなオフィスにキーボードを叩く音と部長の大きなあくびが響く。
カタカタカタ・・・カタカタカタ・・・

「・・・ズズ・・・」
カタカタカタ・・・カタカタカタ・・・
「・・・ズズ・・・ふぇ・・・」
カタカタカタ・・・カタカタカタ・・・
「・・・ヒクッ・・・」

紅茶をすする音かと思っていたオフィスの全員が違うと感じ、声がしたほうを見た。

オフィスのど真ん中でパソコンに向かっている朝子が、パソコンの画面も見ず、うつむいていた。微かに肩が震えている。手はキーボードに置かれたまま固まっている。

「どうしたの? 大野さん?」

一番先に主任が朝子のもとに近寄ったのをきっかけに、みんな仕事の手を止めて朝子の周りに集まった。
加奈はどうすればいいか分からない様子で恐る恐るみんなの後に続いた。

「大野さん?」
主任がもう一度聞く。

「・・・なんでも・・・ないです」
言葉を発したことでタガが外れたのか、大きく肩が揺れ、ヒクヒクとしゃくりあげ始めた。

「ね? 泣いてちゃわかんないよ。ホントにどうしたの? 何かあったの?」

「・・ヒックッ・・ヒッくッ・・」

涙が止まらなくなった朝子に主任は部長と加奈の顔を交互に見た。
部長は軽くうなずいて、主任に目で指示を出した。

「大野さん、とりあえず私とトイレにいって顔でも洗いましょう。気分が悪いようだったらそのまま早退していいから」

そういって主任は朝子の肩を抱いた。朝子は素直に立ち上がり、主任に連れられるままオフィスを出て行った。加奈のほうを一度も見なかった。