「へ?」

あたしが間抜けな声を出した時には、天音くんはあたしを引っ張って走っていた。

手にはあたしのバックも握られている。



「逃げたっ!」

とか、そんなのが聞こえた気がしたけど、一瞬だったから分からない。



天音くんは走るのが速くて、あたしはもつれそうな足をがんばって動かした。

それに繋がれた右手が汗をかいてるんじゃないか、と気が気じゃない…。



「ははっ!」

なのに、天音くんは笑う余裕すらあるのか……。



教室のある三階から昇降口まで一気に走り抜けた。

あたしの息はすっかり上がっている。



「…はぁ……はぁ…」

「笑花、ごめんね?」

「…だい…じょ……ぶ…」



心配そうにあたしをのぞきこんだ天音くんは全然平気そう。

あたしは心配してくれたことがうれしくて、笑って言った。