「うん…」

とあたしは小さく頷いた。


「雨、嫌いなんでしょ?早く家に入りなよ?」

天音くんに言われた通りに、あたしは玄関の扉に手をかけた。


あたしの背中に

「じゃーね」

と言う天音くんを振り返ると、そこにはもう天音くんの背中だけだった。



あっ、お礼っ!


「天音くんっ!」


そう思って、あたしは彼の名前を叫んだ。

うまく呼べたかな…。



ゆっくり振り向くた天音くんに

「ありがとねっ!」

あたしの中に溜まってた“ありがとう”の気持ちを、大きな声で吐き出した。


天音くんの優しく笑った顔が見える。



「また明日ね」



天音くんはそう言って、また来た道を戻って行く。


ビニール傘の中では、天音くんのきれいな手が振られていた。