Dummy Lover



桜が出て行った保健室は、必然的に私と保健医の二人きりになってしまった。

私は保健室とは無縁で、実際は一度も来たことがない。たまにサボりの嘘に使ってしまうくらいだ。
しかも、保健医の名前すら知らない。

だから、早くこの状況から抜け出したい。




「大丈夫か?」


不意に保健医の声が聞こえて、私は我に返った。


「あ、いえ。…あの、ありがとうございました。私も授業出ます」

「は、なんで?俺と二人きりだと気まずい?」

「え、あ、いや…」


『はい、そうです』とも言えずに、私は俯いた。
無難にこの保健室を抜ける策を考えようとしても、なかなか良い案が出てこない。

不審に思ったのか、保健医が私に近づいて来るのが気配で分かる。


「ていうかさ、聞かないの?」

「は、い…?」


いきなり顔を覗き込まれ、驚いて顔を上げる。
すると、微笑する保健医と目が合った。


「お前のこと、ここに連れてきた奴のこと」