それに……
「この世界に未練はないから。あ、でも…フィリナの話し相手がいなくなる」
そうおどけてみせると、フィリナは深いため息をついた。
「全く…おぬしは変わらぬのう……」
「フィリナも変わらないよ」
互いに笑みを浮かべる。
フィリナと出会ったのは母さんがまだ生きていた時だ。
私の母さんとフィリナの母さんは仲が良く、互いに交流が多かった。
聖女と巫女…………
似ているようで違う残酷な運命に捕われた存在。
「おぬしは先に逝ってしまうのか……。まぁ、わらわも短命故、すぐに後を追うのだろうな」
巫女は短命の血の元に生まれる。
フィリナ・クラドラーク。
クラドラークの名を継ぐ者は代々星読みの巫女をやってきた。
未来を見知る血筋。
聖女に続く、神に愛された存在。
同じく生に拒絶された存在。
「大魔女リリスを封じても、人が愚かである限り、世界は何も変わらぬ」
そうだ……
魔は人の心にこそ宿り、伝染する病。
人が自ら病を生み出しては大魔女リリスを封じても変わらない。
「…私達の死は、ただ無駄になるだけ?」
「…それは分からぬ…」
私達も、母さんも、先代の聖女や巫女達も、無駄な死だったなんて思いたくない。
「星読みの巫女にも分からない事があるんだ」
「何でも分かったらわらわは人ではなくなるのう」
私達はまた笑い合う。
私達は互いに支え合う存在だった。
同じ境遇、運命の元に生まれた私達。
でも…それは必ず別たれる運命。
「…また来るよ、フィリナ。もう日が暮れる」
「もうそんな時間かえ?早いのう……。何も言わずにいなくなるのは許さぬ、逝く前に挨拶していくのだぞ?」
そう言ったフィリナの表情は少し暗かった。
「…フィリナにだけはちゃんと言うよ。まぁ、まだ時間はある。それまでに魔女を出来るだけ狩らないと」
使徒達は優秀だけど、魔女も強い。
でも使徒だって人だ。
もっと自由に生きる権利がある。
どうせ短い命なら…私は彼等の生きる道を照らしたい。
「またね、フィリナ」
「アメリア、気をつけて帰るのだぞ」
フィリナに手を振り、神殿を後にした。


