「ケイ・・・って、苗字は何なのよ」

 結局変な男は名前だけ言い残して去っていってしまった。普通は名乗るなら苗字だろうに、図々しい奴だと思う。

 だけど、実はとても意外だった。

 あのケイという客は花束を買っても家に放置していると思ったのだ。まるで酔っ払いが勢いで買うような買い方だったから、贈り物とは違って大切にされることはないだろうと思っていたからあんなふうにちゃんと水に活けられているとは思ってもいなかった。

「しかも、あんなふうに脅し文句言うなんて」

 まるで花が好きな人の気持ちが分かっているようだったけれど、そのくせ花屋で花束を売っているか聞くくらいに花屋に縁がなさそうなのはどうしてだろうか。

 とりあえず私は、『ケイ』という名前だけは記憶に刻んでおくことにした。