「お疲れ様。明日はゆっくり休んでね、ユウキちゃん」
「ありがとうございます」
閉店まではまだすこし早かったけど、昨日から忙しかったから早上がり出来ることになって着替えた私は挨拶をして店を出た。
帰宅時間の駅からの人の流れは絶えることがない。ベッドタウンと言われるこの町は朝と夜が駅前が一番賑わう時間だった。
私はこの町の住人で、駅を利用しないからその人の流れには交わらず、いつものように自宅への道を歩いていく。
近道のためにビルの角を曲がり、小さな丘を登る細長い階段を上がりはじめたときだった。
「あれユウキちゃん、ほんとに?」
突然上から名前を呼ばれた私は反射的にそちらを見上げる。
地元の人しか利用しない細い階段の最上階に一人の人が立っていた。
誰だろうかと警戒をしながら立ち止まったままじっと見ると、その人は被っていた帽子を取りながら私の隣まで一気に階段を駆け下りてきた。
「僕だよ、僕。ほら昨日、店で花束買ったでしょ」
そう言って明かりのほうに向きを変えた男は、たしかに見覚えのある顔だった。