『よろしくお願いいたします』


無表情のまま、頭を下げたなぎさ
俺は唇を噛み締めた

強く、強く抱き締めたい衝動が
俺の中でぐるぐるしていた。


なんで俺を忘れたんだ
忘れられるほどの存在だったのか

…なぁ、なぎさ。

この想いを諦めろと…
そう言いたいのか?



「…女々しいな、俺は」

車に乗り込んで
シートに身体を預ける。


諦めることさえ、俺には出来ない

忘れられても…俺は覚えてる。
なぎさの光のような笑顔を…


「…好きだ」
「初めて会ったあの日から、」


目を閉じれば、
あの日と同じように笑うなぎさが
瞳の奥で笑っている

出来ることなら全てを話して
無茶苦茶に抱き締めたい

それで、お前が傷ついたら…
俺は俺を許せないんだろうな、


「馬鹿だな…俺は」


葛藤するくらいなら諦めればいい

「それが出来ないんだけどな…」

本当に、どうしようもないな…


俺はイライラを隠すように
車のエンジンをかけた。