『九条 なぎさは…
 ここ暫くの記憶を失ったらしいわ』


今度こそ、頭を
金属バットで殴られた感覚がした


記憶…喪失?

『だから、ここに入学することも…
 受験したことも知らないわ』


知らない。


随分な言い種だと思った
忘れたのだから、
…いずれは思い出すと信じた

だから、西澤先生に教えられた
なぎさがいる病院にも行かなかった


だが、その考えが
あり得ないと俺が思ったのは


『あ、先生!!』

入学式の時
九条 あげはが俺に気がついた
やはり事故の傷のせいか
痛々しい包帯を身に付けていたが
屈託のない笑顔は…変わっていない


『ほら、…なぎさ』



「俺は馬鹿だったな…」

心のどこかでは
思い出してくれると期待してたんだ


『……はじめまして』


間違っていた。
甘かった。

それは、
なぎさを見た瞬間に分かった。

なぎさは、…無表情だったから
姉の前だから…ではないと分かる。