存在認定恋愛論




屈託のない九条の言葉に
俺は少しだけ、驚いた

頼られたら、
なんとかしてあげたい…か。


そんなことは
一度も思ったことがなかったから

手を貸すのは利益が見込める時だけ


…でも、ついさっき俺は
利益も損得もなく
1人の女子生徒に手を貸した…



「他人にも、か?」
「…相手に好かれたいですから」


俺は九条の言葉で、頭の中に…
泣きそうな、なぎさの声が聞こえた


相手に…好かれたい?

初対面の彼女に、俺は…


好かれたかったのか?



そんな思考を中断させるように
試験休憩のチャイムが鳴った。

それと同時に、ざわめきの中から
見覚えのある生徒が走ってくる


「っ先生!…あげは、」


九条 なぎさだ


なぎさは俺と一緒にいた九条を見て
萎縮したようにうつむく


…仲が悪い、というよりは
なぎさが一方的に萎縮している。


「なぎさ、試験どうだった?」
「……大丈夫、です」