改めて、この世界は狭いんだということを思い知らされた。

なんでこんなとこにいるんだろう。此処からあそこは電車で片道でも一時間もかかるのに。

それにこんな何もない不良学校の近い場所なんて誰も近づきたがらない筈なのに。


「まさか高校デビュー?やば、ウケるんだけど」

「しかもその制服あのバカ学校のじゃん。どうりであっちで見ないわけだ」


周りがなんか言ってる中、奴だけはただ、笑ってた。

しかも素の笑い方じゃなくて、あの時みたいな。

無視すれば良いのに足が動かない。


「さいとーさん」


未夢とは違った、耳について離れなさそうな呼び方。

そいつは近づいてでも決して密着せずに笑みを浮かべて。


「あの時はごめんな。これからも仲良くしてくれるか?」

「黒野(クロノ)君ってば、優し過ぎ!」


どこがだ、あたしの許しを聞かずに手なんか差し出したんだぞ?

しかもこいつにとっては、あのことは少しの罪悪感すら持っていなかった。

亜梨沙の顔に怒りが見え始めた。どうして、動けないの。


「やっちまいな、んなカス男」


突然、後ろからドスのきいた声が聞こえた。

振り返るとそこには髪を解いた村﨑先生がいた。

さっきと雰囲気全然違う。