とりあえずこれで誤魔化すことが出来た。


「…亜梨沙の何の話を聞きたいの」

「あー、直接聞けば良いんだろうけど、あっちは避けてるからさ。…亜梨沙もしかしてイジメにあってる?」

「…どうしてそう思う」

「や、なんとなく」


あたしは静かに首を横に振った。

この二人は本当に、近くにいるようでいないんだな。

なんだかもどかしくなって、あたしは心で亜梨沙に謝りながらゆっくり口を開いた。


「亜梨沙は一度だって制服を着てない。それに亜梨沙の部屋に教科書はないし、テストのプリントだってない…この意味が分かるか?」

「…行ってない、のか?」


驚きを隠せない様子で、声も掠れてしまっている。

まるで、顔に何故?と書いてあるみただ。


「あんたを、大学に行かせたかったからだよ」


夢だったんだろ?教師になることが。そう言うと、宮根悠些は全て理解したらしく、静かに涙を流した。

…不覚にも、綺麗だと思った。


「あんたじゃない…先生だ」

「……鼻水汚い」

「うるさいなっ!しょうがないだろ…俺、全然知らなくて…」

「知らないなら知ってけば良い」


そう言うと更に泣き出した宮根悠些。


「じゃあ後はあんた等次第だから、もう帰る」

「だからあんたじゃなくて先生だ!」


泣きながらそうこだわる宮根悠些に、思わず笑った。

…ん?なんか顔赤くない?