「あのさ、先輩のことだけど黙っててごめんな」
「ううん。私のこと考えて黙っててくれたんでしょ?里美に聞いたよ」
私は恭介のその優しさが単純に嬉しかった。
なんだかんだ喧嘩になるけど、恭介はいつも私や里美のこと考えてくれてるんだよね。
「俺…そこまで優しくねぇよ」
「え?」
「いや、何でもない」
私、何かまずいこと言ったかな…
珍しく俯いてしまう恭介。
こんな風に恭介が黙り込むなんて前例がないから何だか妙に気まずい。
昇降口は不自然なぐらい静まり返り、学校の廊下独特の空気が漂っていた。
「葵」
ややあって、沈黙を破った恭介と視線が重なった。
ピクリとも動かない眉。
私を見据える力強い眼差し。
…そして、揺れる熱い瞳。
「な、何?」
緊張のあまり声が裏返ってしまった。
動揺を隠しきれない。
心臓は破裂しそうなぐらい激しく音を鳴らし、頭の中まで響き渡る。

