「桜井先輩は今どうしてるんですか?」
「入院してる。リハビリは最低限しかしてないらしい。…昨日お見舞いに行ったらおばさんから転校するって聞いた」
「転校?」
「その転校先が偶然兄貴の親友の妹と同じで、しかも奏人と仲が良いってこと知って今日会いにきたんだ。奏人はまだサッカーが好きなんだ。だけど今、あいつはボールすら触ろうとしない」
俺は信じられなかった。
サッカー一筋の先輩が、ボールすら触ろうとしないなんて…
「俺はあいつを助けてやれなかった。結局は俺も他の奴らと同じだ…大会に出られなくなること、退部させられることが怖くて学校側の言いなりになった。奏人は、あんな風になっても自分のことより俺のことを考えてくれたのに…」
矢野さんは勢いよくベンチから立ち上がり、俺と若菜先輩に向かって深く頭を下げた。
「奏人を頼む。俺にこんな事言う資格なんてないかもしれないけど、奏人を助けてくれ」
「矢野さん、頭を上げて下さい。私も同じ気持ちです。出来る限りの事はしてみます」
その言葉を聞いて、矢野さんは安堵の表情を浮かべた。

