「待って!!」


私の呼び掛けに夏樹さんは振り返らず足を止めた。


「夏樹さんは間違ってます!あなたは愛されてない人間なんかじゃありません。桜井先輩はまだあなたのことを信じてます。他の仲間だってまた一緒にサッカーしたいって言ってたじゃないですか。お父さんだって夏樹さんを大切に思ってるから来てくれたんですよ!?…お父さんも夏樹さんも不器用なだけなんだと思います。今は少しすれ違っちゃってるだけで、ちゃんと言葉にすれば伝わりますよ」


皆、夏樹さんにひどい事をされても彼を信じてる。

それは夏樹さんの心が本当は暖かいって知っているから。


「…もう、遅ぇよ」


夏樹さんはそう言ってグラウンドに戻って行った。



「遅くないですよ…いつだってやり直せます」


私は夏樹さんの寂しい背中に向かって呟いた。


延長戦が始まった。

佳菜子さんとお父さんが一番後ろの席から試合を観戦しているのを見つけた。

夏樹さんは延長戦に入ってから動きが荒くなり、反則行為ギリギリのプレーを続けた。


そして…


「危ない!!」


会場の所々から悲鳴に近い声が上がった。

私は思わず息を呑んで、口元を両手で覆った。