二人は私達の前まで来て足を止めた。

夏樹さんは冷酷な眼差しでお父さんを見据えている。


「…佳菜子。お前が呼んだのかよ?」

「そうよ。一度、なつがサッカーをしてる姿を見て頂きたくて…「「余計なことしてんじゃねえよ!!!」」


夏樹さんの怒声は辺りに響き渡り、賑やかだった周辺の空気が一気に凍りついた。

周りの人は遠巻きに視線を注ぎ、政治家のお父さんに気付いた人は携帯のカメラを向けている。

お父さんの後ろにいた秘書らしき人は、直様厳しい顔をして写真を撮った人に話しかけていた。


「俺…戻るわ」


夏樹さんはお父さんと目を合わせる事すらせずにその場を後にした。



「夏樹さん!!」


私は夏樹さんを追い越して行く手を塞ぐ。


「…あそこにいたってことは佳菜子から何か聞いたんだ?」

「…夏樹さん、お父さんのところに戻りましょ?」

「あんな奴、父親なんかじゃねぇよ。そこどけ」


夏樹さんは私の横を通り過ぎた。

一瞬目と目が合った時、私は目を見張った。

睨むような鋭い目でもなく、冷たい生気のない目でもなく…

今まで見た中で一番悲しそうで、泣きそうな目をしていた。