「お!葵ちゃんだっけ?」


目を開けると口元にいやらしい笑みを浮かべた夏樹さんが私に向かって歩いて来るのが見えた。

インターハイの時に感じた恐怖が蘇ってきて指先から震えてくるのがわかる。

心臓が鈍器で叩かれたように激しく鼓動し、手のひらに汗が滲む。


やだ…来ないで…


その瞬間、風がふわっと髪を揺らし大きな背中が私の視界を塞いだ。

首元には今朝プレゼントした濃紺のマフラー。


「先輩…」

「おい奏人…そこどけよ」

「夏樹、この前言ったよな?チームの奴らに何かするのは許さないって」


先輩はズボンのポケットに手を入れて、私を夏樹さんから隠すように立っている。

私は背後から先輩の制服のブレザーをギュッと握った。


「おい!君達何をやってる!喧嘩なら両チーム失格にするぞ!」

「何でもありません。懐かしい奴に会ってつい盛り上がっちゃって」


小野田先輩が係員に駆け寄り何とかその場を凌いでくれた。