「私ね、昨日予備校の帰り恭介に偶然会って先輩のこと聞いたの」

「えっ?」

「恭介は葵がショック受けると思ったから言えなかったって」

「ショックって…先輩に何があったの?」


里美は「落ち着いて聞いてね」と静かに話し始めた。


「サッカーの名門校で一年生ながらレギュラーに選ばれた先輩は、高校サッカー界で一気に名が広まったんだって。もちろん新人戦はキャプテンとして大活躍、優勝を果たした」


私もネットで調べてそこまでは知っていた。

先輩は本当に凄い選手だった。


「監督や先輩、プロのスカウトまでもが先輩に期待した。でもそれとは逆に妬む人も出てきた。数人だけど、その人達は寄ってたかって先輩に嫌がらせを始めた」

「嫌がらせ?」

「そう。スパイクをズタズタに切り裂いたり、練習中に足を狙って怪我させようとしたり」

「……」

「先輩は誰にも言わなかったし、チームの中では何ら変わったとこもなくいつも通りだったみたい。嫌がらせの主犯格も、監督や上級生の前ではそんな素振り絶対見せないで優等生を演じてた」


今にも涙が出そうだった。

悔しくて、悔しくて、拳を強く…爪が食い込むぐらい強く握った。