私は今まで一度も本気で人を好きになったことがなかった。
葵に偉そうなこと言っておいて本当の恋を知らない。
いいなって思う人は何人かいたけどそれ以上になることはなくて、どこか冷めてる自分がいた。
だからきっと佐々木君もそうなんだ。
かっこいいとは思うけど、また今度もそれ以上にはならない。
「昼休みに勉強?」
「あ…うん」
「テスト前でもないのに偉いね」
「そっちこそ。それ参考書でしょ?」
「ああ、これ?俺は部活で疲れて夜勉強出来ないから今やってるだけで。そうだ!一箇所わからない所があるんだ。教えてくれない?」
「私にわかればいいけど…教え方下手くそだよ?」
佐々木君は「大丈夫、大丈夫」と言って持っていた分厚い参考書をパラパラと捲り始めた。
その指がゴツゴツしてるけど細くて、綺麗な爪で…
一瞬触れてみたいと思った。

