さくら色 〜好きです、先輩〜


「あれ…さっきまでいたのに何処行ったんだ…?」

「やっぱり二人だったのか…」


矢野は眉間に皺を寄せて呟いた。

その表情に、妙な胸騒ぎを覚える。


「どういう事だよ…?」

「さっき一階のトイレの前で夏樹が二人の女の子と一緒にいたんだ。女の子の顔はよく見えなかったけど着てたジャージが奏人のジャージと同じだって今気付いて……っておい!奏人!!」


俺は矢野の言葉を最後まで聞かずに走り出した。


あそこの突き当たりを曲がれば女子トイレがある。

頼むから無事でいてくれ…

葵は…葵だけは傷付けないでくれ…


俺は頭の中で何度も何度もそう繰り返した。


だけど次の瞬間、俺の願いは打ち砕かれた。


「きゃあ!!」


突き当たりまであと数メートルの所で、葵の甲高い叫び声が聞こえた。


葵…!!!


「おい!!何してんだよ!」


俺が突き当たりを曲がった瞬間、目に飛び込んで来たのは葵が夏樹に抱かれて今にも泣きそうな顔をしている姿だった。