「…何も言わないで先に行ってごめんな」


恭介はバケツから目を逸らさず、気まずそうに言った。


「う、ううん!そんな…」


気の利いた言葉が見つからなくて、私達の間には重い空気が流れる。


「…それだけ言いたかっただけだから」


恭介は私に背を向けて歩き出した。


「恭介!!」


私は思わず恭介の名前を呼んでいた。

その瞬間、肩をビクッと揺らした恭介は振り返らずに立ち止まった。


「あの…ね」


呼び止めておきながらも、言葉が何も出てこない。


“恭介と今まで通りでいたい”


そんな身勝手な思いが頭の中に浮かんでは消える。

それは、私が言える事ではないから。


「…少しの間だけ待っててくれないか?」

「え?」

「必ず幼馴染に戻るから…だから信じて待っててほしい」


恭介はそう言って再び歩き出した。


嬉しかった…

泣きそうなぐらい嬉しくて涙が溢れてくる。

また恭介と笑いあえる日が来るんだ…


私はその涙が零れないように空を見上げた。

どうしてだろう…

朝見た空と何ら代わりのないはずなのに。

今の方がずっと綺麗に見えた。