一枝の寒梅






その瞬間


どくんっ


そうわたしの心臓は素直に反応した。

武市さんはただわたしの瞳をその澄んだ瞳で見つめて、わたしの手に自らの手を添えたままこう言った。


「僕は見ての通り髪が長いからね。そう簡単には、はねないんだよ。残念だったね」


声を出して笑う武市さんの手からするりと手を抜け出してわたしは顔を赤くする。


幼いころからよく一緒にいた武市さんに対して顔を赤くするなんて……。


――やはり、少しは夫として見ているからなのか。


前はどうやって武市さんと接していたのか急にわからなくなってしまった。



「……とみ」


ふいに武市さんがわたしの名前を呼んだ。

親を含め、他の人は皆わたしのことを‘‘富子‘‘と名前を呼ぶのに。

武市さんだけは幼い頃からなぜか彼ひとりだけわたしを‘‘とみ‘‘と呼ぶ。


だから、後ろから誰かに呼ばれたとき。
それが‘‘とみ‘‘だったなら。

振り返らなくても必然的にそれは武市さんだとわかる。