「…ブラッド・ヴァニッシュ。」


幸大が掌を王に向けて呟いた。


サァァァァァッ…


少しずつ王の体が塵となり風に導かれ消えていく。


「父よ…」

ヴァンが一歩踏み出す。

「余は吸血鬼の王ぞ…


余にはヴァンと言う息子はおらぬ。

余の息子は余と同じく名もなき存在。


余は千年の間、名を持たずに生き、今、名もなきまま死に逝く。


ゆえに説得力も無ければ自分自身、理解もできぬが…



己の名を大切にせよ…そして誇れ。」



王は既に半身が消えている。


「幸大…」


「何だ?」


「そなたは…そなたらしくあれ。


永遠に。



王が王であることは…自分が自分であることと変わらない。


そなたが何と言おうとも、そなたには吸血鬼の王の血が流れている。



ヴァン、幸大…


王とは背負うモノではない…

己の一部であり己そのものだ。」


「「…。」」


ヴァンと幸大は消えていく王を見つめる。


「つまらぬ日々だと数百年も前から思っていたが…最後は中々に面白かった。




高貴なる吸血鬼の最初で最後の言葉だ。


ありがたく賜れ。」


王がほとんど消えかかった口元を動かす。


―我が敵よ、最大の敬意と感謝を


ありがとう―




ザァッ!!


広間に風が吹き抜けるかのように王の体は塵になり風とともに姿を消した。