「――マシロ」
突然降ってきた声にびくりとした。
反射的に振り返れば、これまた完璧な笑みを貼りつけた、細身の若い男がこちらを眺めていた。
輝く銀の瞳は、美しいと同時に妙に恐ろしかった。
何もかもを見透かされているようで。
こんな風に言ったら失礼かもしれないけれど、不気味なくらい肌が蒼白くて、とにかく死体のようだと思った(今となっては私もそうなのだけど)。
「イナバマシロ。君の名前だよ」
傍らの少女と同じ栗色の髪。
ラグナロクの艶やかなそれに対し、男の栗毛はまるで枯れ葉みたいだった。
「マシロ……じゃあシロちゃんだねっ!」
「ま……しろ…?」
「そう。“舞う”という字に“白雪”の“白”で“舞白”」
恐怖は消えなかったが、代わりに霧が晴れていくような気分だった。
それが自分の本名なのか、それとも彼の考えた新しい名だったのか、長い月日が流れた今も尚、私には分からない。
いずれにしても。
あの瞬間、死神、因幡舞白は誕生したのだ。
【終】