自分が死んでいるのだという事自体、彼らに教えられるまで分からなかった。

憶えているのは、視界を塞ぐ程の雨、雨、雨。

突然寒さが消えた事に、もっと早く気付くべきだったのかもしれない。






「新人さん? これからよろしくねえ」

栗色の巻き毛を揺らし、完璧な笑顔でそう言った女の子は、後の上司、ラグナロク。

女の私から見ても、溜め息が出る程可愛らしい子だった。



「お名前、なんていうのお?」

「あの……私は……」

吃る私の顔を、少女は不審そうに覗いていた気がする。



続きが出て来なかった。

生前の名を思い出そうと記憶を辿っても辿っても、答えはぼんやりと佇んだまま。

まるで霞がかかっているみたいに。



名前だけじゃない。

家族の顔も友との思い出も好きだった歌も、何もかもが朧気で曖昧で。



言いようのない恐怖だけが全身を廻っていた。