もうひとつの、


「いい加減しゃきっとしなさい! 今日は大事な試合なんだ、疾風先輩や弥々や犬、相手の先生方を待たせる訳にはいかないだろっ。遅刻なんてしてみろ、恥ずかしくて恥ずかしくて龍娘先生に合わせる顔がない」



残念ながら、李龍娘は現在夢の中。

漢方薬局の二階で盛大ないびきをかいている。



「……俺が行く前提で話すのは止めろ」

「お前も来ないか? きっとわくわくするぞっ!」



彼女の表情は、遊園地で、絶叫マシーンの苦手な友に対し一緒にジェットコースターに乗ろうと提案する子供のようだ。

屈託のない笑顔を向けられては断る事など出来まい。

だが。



「面倒。俺はお前らの勝負とは無関係だ、一人で勝手に行けばいい」



あっさりばっさり切り捨て、燕は極寒の視線で許嫁を一瞥すると体を起こして彼女から掛け布団を引ったくり、再びそれにくるまってしまった。



「えー、そんな事言わずに一緒に行こうよー。なあなあ燕ー」

しゃがみ込み、肩を掴んで揺する雀だが

「……お前はそんなに自分が無様に負ける姿を見られたいのか」

少年は背を向けたまま呟く。