様々な土産物屋や飯店が軒を連ねる中華街、その一角に夏柳家は存在する。
時刻は午前五時。
夜の帳が下りればネオン輝き人で溢れ返る繁華街も、星が隠れ空が明るくなってきた頃には随分と静かだ。
トタトタという小走りの音と床が軋む音に、部屋の主である少年の眉が反応した。
大きく欠伸をする彼は、この家の居候だ。
間髪容れずに勢いよく襖が開かれ、夏柳家の一人娘、雀が入って来る。
夏柳雀は今年高校に入学したばかりの十五歳だが、初対面の人間には小学生に間違われる事もある程、幼く見える。
その原因は起伏のない体型を始めとする容姿と、それから天真爛漫で純粋無垢、率直な性格だろう。
例えるならばピーターパン。
幼稚園児をそのまま成長させたような彼女は、少年の幼なじみにして許嫁である。
許嫁と言っても、漫画等でよくある“先祖同士が勝手に決めた婚約者”なのだけれど。
「燕! 起きろ朝だぞ! つうばあめえ!」
よく通る声が室内に響いたかと思うと、雀は一気に掛け布団をひっぺがす。
「…………」
温かい布団の中で丸くなっていた少年は、突然の寒さに更に体を縮こまらせる。
緩々と目蓋を上げ、青みがかった瞳で声の主を睨んだ。
相当機嫌を悪くしたらしく、その視線は鋭くて冷たい。
一瞬にして相手を畏縮させ、黙らせる力を持った目。